特許翻訳の表現

特許翻訳の表現

1.英語での表現
日本人にとって日本語は曖昧と感じている人も多いと思いますが、米国の人たちも実は同じように英語は曖昧(vague language)と思っており、例えば、翻訳を進める場合に日本語の曖昧さがそのまま英語の曖昧さとなるように翻訳することも形式上可能ですが、特許翻訳の場合では、なるべくその曖昧さを少なくするように翻訳します。日本語を母国語とする人の場合、日本語の言葉を欠いた部分を補って読むことで内容を把握できますが、英語では言葉を欠いた部分があまり省略されない言葉であるときにそのまま翻訳した場合では意味が伝わらないことが多くなり、うまく翻訳できないことになってしまいます。特に英語の場合には、主語、述語、目的語が日本語よりも省略されないことが多いと思いますし、特許の場合は自動詞の頻度は少ないため、目的語を補いながら翻訳することは多いと思います。また、或る表現しようとする事柄について、英語で表現した場合と日本語で表現した場合では、概ね主語が異なる場合があり、英語らしい表現を心がければ主語を置き換えることも考える必要があります。また日本語の明細書では、文語表現のためにわざと名詞的な主語による表現も目立ちますが、そのまま翻訳するよりも名詞的な主語を動詞に置き換えて表現することで語数も少なく自然な英語になる場合があります(例、取り付けを行う。→取り付ける。)。
2.原稿の日本語の読み方
特許翻訳で重要な能力の1つに、日本語の読解力があります。明細書は通常の日本人にとって決して読みやすい文章ではありません。小説のように読んでいて楽しくなるようなことも余りないと思います。特に特許翻訳では、比較的に長い文章の中で修飾語がどの言葉を修飾しているのかを確実に把握する必要があり、日本語が曖昧なところを技術的な知識を利用しながら読みこなす力が必要なこともあります。また、修飾語がどちらの語を修飾しているのか判断できない場合(例、赤いワインの瓶。瓶が赤いのか、ワインが赤いのかが不明)も、厄介なものですが、この場合には原稿を書いた人に聞くのが早い解決法の1つと思います。所謂特許用語のように普段見かけない言葉もあり、時には明細書を書く人によって同じ言葉でも微妙に違う意味になっていることがありますのでどの意味で明細書が記載されているのか注意が必要です。また、日本語には単数と複数の区別がありませんので、1つかどうかは疑問が生じた際に、図面などにより確認するのが良いように思います。
3.特許固有の表現
英文の特許明細書には、一種の伝統のような独特の言い回しやルールがあり、このような独特の言い回しやルールは、全く明文化されていないか、或いはMPEP(Manual of Patent Examining Procedure)に記載されているものであることが多いです。良く知られているルールとしては、transitionの言葉の”comprising”と”consisting of”の違い(MPEP 2111.03)や、要約についての単数段落で50~150語程度、”said”や”means”を使わない(MPEP 608.01(b))、従来の技術を示す図面には”Prior Art”のレジェンドを入れる(MPEP 608.02(g))などの独特のルールがあります。以下はMPEPで示される現行の明細書の部分を挙げたものです。
608.01(a) Arrangement of Application
(a) TITLE OF THE INVENTION.
(b) CROSS-REFERENCE TO RELATED APPLICATIONS.
(c) STATEMENT REGARDING FEDERALLY SPONSORED RESEARCH OR DEVELOPMENT.
(d) THE NAMES OF THE PARTIES TO A JOINT RESEARCH AGREEMENT.
(e) INCORPORATION-BY-REFERENCE OF MATERIAL SUBMITTED ON A COMPACT DISC.
(f) BACKGROUND OF THE INVENTION.
(1) Field of the Invention.
(2) Description of Related Art including information disclosed under 37 CFR 1.97 and 1.98.
(g) BRIEF SUMMARY OF THE INVENTION.
(h) BRIEF DESCRIPTION OF THE SEVERAL VIEWS OF THE DRAWING(S).
(i) DETAILED DESCRIPTION OF THE INVENTION.
(j) CLAIM OR CLAIMS (commencing on a separate sheet).
(k) ABSTRACT OF THE DISCLOSURE (commencing on a separate sheet).
(l) SEQUENCE LISTING.
4.法律文としての記載法
英文の明細書は、欧米の各国では特許弁護士や欧州弁理士の専門家が書くものとされており、コンマ、コロン、ダッシュの打ち方などに文法上の厳格なルールがあります。
[コンマ(connma)]—2つの目的語に対しては使わない。
悪い例: The phthalide compound is mixed with an alkaline compound, and a solvent.
良い例: The phthalide compound is mixed with an alkaline compound and a solvent.
[コンマ(connma)]—従属節が独立節に先行する場合は、その間にカンマを置くが、逆の場合にはカンマで切らない。
悪い例:The semiconductor substrate is heated, after placed in an oxidizing atmosphere.
良い例:The semiconductor substrate is heated after placed in an oxidizing atmosphere.
良い例:After placed in an oxidizing atmosphere, the semiconductor substrate is heated.
[セミコロン(semicolon)]—2つの独立節が、接続詞で区切られない場合には、セミコロンで分けるようにする。
悪い例:A housing is attached to a coupling, however, a motor is not mounted.
良い例:A housing is attached to a coupling; however, a motor is not mounted.

[ハイフン(hyphens)]—2つ以上の語が1つの形容詞になる場合、ハイフンで連結します。
悪い例:a fifty page opinion, a pressure sensituve coloring system
良い例:a fifty-page opinion, a pressure-sensitive coloring system
但し、副詞と形容詞の組み合わせの場合、ハイフンは不要です。
悪い例:an electrically-conductive lead
良い例:an electrically conductive lead
[コロン(colons)]—次のような場合はコロンを使うことはできません。
前置詞とその目的語の間
悪い例:The liquid is added to: adhesive agents, washing agents, and powders.
良い例:The liquid is added to adhesive agents, washing agents, and powders.
動詞と目的語の間
悪い例:The countries those elements are found are: Japan, Korea, China, and Taiwan.
良い例:The countries those elements are found are Japan, Korea, China, and Taiwan.

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